A型肝炎について
主な症状
A型肝炎は、A型肝炎ウイルス(HAV)が口を通じて体内に入ることで感染します。潜伏期間は通常2〜6週間で、他の急性ウイルス性肝炎と比べると、発熱や頭痛、倦怠感、食欲不振、筋肉痛、嘔吐などの症状が強く現れやすい点が特徴です。
また、血液検査ではAST(GOT)やALT(GPT)の値が上昇し、黄疸、肝臓の腫れ(肝腫大)、ビリルビン尿、灰白色便などの所見が見られることもあります。
ごく稀に劇症化して命に関わることもありますが、一般的には経過は良好で、1〜2カ月ほどで自然に回復します。さらに、肝臓以外にも急性腎不全、貧血、心筋の障害といった合併症が起こることがある点にも注意が必要です。
感染経路
A型肝炎ウイルス(HAV)は糞便中に排出され、経口的に体内へ取り込まれる「糞口感染」によって広がります。発症の頻度は地域の衛生環境と深く関係しており、衛生状態が良くない発展途上国では、10歳までにほとんどの人がHAVに感染し、症状が出ないまま自然に抗体を持つようになるとされています。
特に小児では、感染していても症状が現れない「不顕性感染」がしばしば見られます。
日本国内では、魚介類の生食による感染や、性的接触を介した感染例が報告されており、集団感染は比較的稀です。
検査・診断方法
当院では、A型肝炎の診断にIgM-HA抗体検査を実施しております。
この抗体は、感染後おおよそ1ヶ月で最高値に達し、その後3〜6ヶ月以内に陰性となるため、感染機会から1〜3ヶ月以内の感染歴の有無を判断することが可能です。
治療方法
A型肝炎の治療は、安静と症状に応じた対症療法が基本となります。症状が軽い場合には、入院をせず外来で経過を観察することも可能です。
多くのケースでは1〜2カ月のうちに自然回復し、B型肝炎やC型肝炎のように慢性化することはありません。回復後には強い免疫が形成されるため、再感染の心配はほとんどありません。なお、劇症肝炎へと進行する確率は約0.1%と言われています。
予防方法
A型肝炎の主な予防策は、汚染された水や食べ物を摂取しないことです。特に魚介類は感染源となる可能性があるため、85〜90℃の加熱を少なくとも4分以上行うようにしましょう。
また、任意の予防接種としてA型肝炎ワクチンがあります。特に海外渡航を予定されている方が事前の予防目的で接種を希望されることが多く、3回の接種によりほぼ100%の確率で抗体が得られます。ワクチンによる免疫の持続期間は、おおよそ5年間とされています。
B型肝炎について
B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)が血液や体液を介して体内に侵入することで発症します。感染したタイミングやウイルスの種類(ジェノタイプ)、感染者の健康状態によって、ウイルスが自然に排除される「一過性感染」と、体内に残り続ける「持続感染」に分かれます。
特に、生後間もない出産時や3歳未満での感染、あるいはジェノタイプAに分類されるHBVに感染した場合は、持続感染に至りやすいとされています。
主な症状
B型急性肝炎
感染から発症までの潜伏期間は1〜6カ月ほどです。主な症状には、全身の倦怠感、食欲低下、吐き気、嘔吐、褐色尿、黄疸などが挙げられます。ごく一部では劇症肝炎に進行し、肝不全を起こすことがありますが、多くは数週間で回復します。
B型慢性肝炎
出産時にHBVに感染し、そのまま持続感染となった場合は、長い間自覚症状がないまま経過します。この状態は「無症候性キャリア」と呼ばれ、体内にウイルスが存在し続けます。思春期以降、免疫が発達すると、約20%の方に肝炎が発症し、慢性的な炎症が継続するようになります。
適切な治療を受けないまま放置すると、肝硬変や肝がんに進行するリスクが高まります。慢性肝炎そのものには明確な症状が現れにくく、肝硬変・肝がんに至ることで初めて異常に気づくことも少なくありません。
感染経路
| 垂直感染(母子感染) | 妊娠中や出産時に、HBV陽性の母親から子どもへ感染が起こるケース |
|---|---|
| 水平感染(体液・血液による感染) | 性的接触による体液のやり取り |
| 静注薬の回し打ちや注射器の共有 | |
| 血液に触れる可能性のある刺青やピアスの施術 | |
| 消毒が不十分な器具を使用した医療行為 | |
| 不衛生な器具を用いた民間療法など |
検査・診断方法
B型肝炎の診断および病状の評価には、血液検査、画像検査、さらにはフィブロスキャンや肝生検といった専門的な検査が用いられます。
特に血液検査では、肝機能の状態や炎症の程度、B型肝炎ウイルスの活動状況などを多角的に把握することが可能です。
肝機能検査
AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、ビリルビンなどの数値を測定し、肝臓の炎症や障害の程度を確認します。
病状が進行すると肝臓が硬くなる「線維化」が起こるため、ヒアルロン酸、Ⅳ型コラーゲン、M2BPGiといった線維化マーカーも併せて測定します。
また、AFPやPIVKAⅡなどの腫瘍マーカーを評価することで、肝がんのリスクも把握できます。これらの項目を総合的に判断し、肝機能の全体像を明らかにします。
抗原・抗体検査
| HBs抗原 | 現在HBVに感染しているかどうかを判断する基本的な指標です。陽性であれば感染中とされます。 |
|---|---|
| HBe抗原 | ウイルスが肝臓で活発に増殖している際に陽性となり、感染力が強い状態を示します。 |
| HBs抗体 | 過去の感染やワクチン接種により免疫を獲得した場合に陽性となります。 |
| HBc抗体 | 急性B型肝炎の診断や、キャリア状態の把握に用いられます。 |
| HBe抗体 | HBe抗原が陰性で、HBe抗体が陽性であれば、感染力は低いと判断されます。 |
| HBV-DNA測定 | ウイルスそのものの遺伝子量を測定する検査で、HBVが体内に存在しているかを確認します。 |
画像検査(主に腹部超音波検査)
腹部超音波検査(腹部エコー検査)では、肝臓の形状や硬さ、腫瘍の有無などを視覚的に評価できます。急性・慢性いずれの肝炎にも有効で、診断だけでなく経過観察にも用いられます。
長期のB型慢性肝炎、肝硬変患者では発がんリスクがあがります。腹部超音波検査だけでは死角が生まれることから、CT・MRI検査を適切に追加施行し腫瘍の有無、特に、観察が難しい背側の腫瘍の有無などを確認します。
治療方法
B型急性肝炎
A型肝炎と同様に、急性期には安静と症状に応じた対症療法が中心となります。ただし、劇症肝炎へと進行した場合には生命に関わるリスクがあるため、抗ウイルス療法や血漿交換など、より積極的な治療介入が必要になります。重篤なケースでは、肝移植が唯一の救命手段となる場合もあります。
B型慢性肝炎
慢性B型肝炎では、ウイルスを完全に体外から排除することは難しいため、治療の目的は「ウイルスの活動を抑え、肝炎の進行を防ぐこと」にあります。
主な治療法には以下の2つがあり、それぞれに特徴があります。
現在の主流は、副作用が比較的少なく服用しやすい「核酸アナログ製剤」となっています。
| メリット | デメリット | |
| インターフェロン | 免疫を活性化させる効果がある 治療を終了できる耐性ウイルスが出にくい |
注射薬である副作用がほぼ必ず出る ジェノタイプによって効果が異なる |
|---|---|---|
| 核酸アナログ製剤 | 経口投与が可能 副作用が少ない |
長期服用が必要で中止が難しい 耐性ウイルスが生じる可能性がある 妊娠を希望する場合は使用不可 |
いずれの治療法も高額な薬剤が使用されますが、公的な医療費助成制度を利用することで、自己負担を抑えた治療が可能です。
予防方法
B型肝炎はワクチン接種によって予防が可能です。乳幼児期に3回のワクチン接種を行うことで、HBs抗体を獲得でき、得られた免疫はおおよそ15年間持続するとされています。
20代までに接種すれば高い予防効果が期待できますが、加齢とともにワクチンの効果は低下します。
例えば、40歳を超えてからワクチンを接種した場合、免疫を獲得できる割合は約80%と言われています。
B型肝炎に関する注意点
- 肝炎の再燃や肝がんの発症リスクがあるため、3-4カ月ごとの血液検査、6カ月ごとの腹部超音波検査、必要に応じて、CT・MRI検査の併用を推奨しています。
- 診断を受けた場合は、他者への感染を防ぐための配慮が必要です。特にパートナーやご家族に対しては、HBV感染の有無を確認し、必要であれば検査やワクチン接種を行いましょう。
- B型肝炎ウイルスに感染していても妊娠や出産は可能ですが、適切な準備が必要です。妊娠を希望される場合や既に妊娠中の方は、必ず産婦人科の主治医にご相談ください。
C型肝炎について
C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(HCV)への感染によって引き起こされます。医学の進歩により、飲み薬を2-3ヶ月飲むだけでほとんどの例でC型肝炎を治せるようになりましたので早期発見することが重要です。感染した方の約70%は自覚症状のないままウイルスが体内に残り、持続感染(不顕性感染)へと移行します。これにより、慢性肝炎から肝硬変、さらには肝臓がんへと進行していく可能性があります。
慢性C型肝炎の患者様のうち、およそ40%は20年以上かけて肝硬変へと進行するとされており、肝硬変を発症した場合、年間約7%の割合で肝がんが発生すると報告されています。
肝硬変の初期は肝機能が保たれた「代償性肝硬変」の状態ですが、病状が悪化すると「非代償性肝硬変」となり、肝機能の低下とともに様々な合併症や症状が現れます。
C型肝炎は、急性期に目立った症状がほとんどないため、感染に気づかずに病気が進行するケースが少なくありません。多くは、非代償性肝硬変や肝がんへと進んだ段階で初めて異常に気づくことがあり、慢性肝炎や肝硬変、肝がんの原因として最も多いのがC型肝炎ウイルス感染です。
主な症状
C型肝炎の多くは慢性化するため、急性肝炎に見られるような強い症状はほとんど現れません。倦怠感、食欲不振、疲れやすさなどが見られることもありますが、いずれも非特異的で、C型肝炎に特有とは言い難いものです。
この点が、急性症状が比較的出やすいB型肝炎とは異なる大きな特徴です。
病状が進行して肝硬変や肝がんに至ると、黄疸、体重減少、腹水の貯留、肝性脳症などの症状が現れる可能性があります。ただし、必ずしも明確な症状が出るとは限らず、健康診断などで初めて肝硬変や肝がんが発見されるケースも少なくありません。
感染経路
C型肝炎ウイルスは血液を介して感染します。日常生活の中で他人の血液に直接触れる機会はほとんどないため、一般的な接触では感染する心配はほとんどありません。ただし、以下のような場面では感染の可能性があります。
- 入れ墨やピアスの施術時に、不衛生な器具や使い回しによる感染
- 覚せい剤などの注射器の共有
- 性的接触による体液を通じた感染
- 稀ではありますが、出産時の母子感染
また、現在の輸血や血液製剤は厳密なウイルス検査が行われているため感染リスクはありませんが、以下の期間に該当する処置を受けた方は注意が必要です。
- 1992年以前の輸血
- 1994年以前のフィブリノゲン製剤使用
- 1988年以前の血液凝固因子製剤使用
これらの処置を受けた後、1年以上経過してからHCV抗体検査で陰性が確認されていれば、感染していないと考えられます。
検査・診断方法
血液検査
C型肝炎の初期スクリーニングには、血液中のC型肝炎ウイルスに対する抗体(HCV抗体)を調べる検査が用いられます。健康診断などで実施されることもあり、これまで検査を受けたことがない方は、一度確認しておくことをお勧めします。
HCV抗体が陽性であった場合には、次のステップとして「HCV-RNA定量検査(HCV核酸増幅検査)」を実施し、現在もウイルスが体内に存在し続けているかどうかを確認します。これは、抗体検査では既にウイルスが排除されている場合でも陽性になるためです。なお、C型肝炎は自然治癒するケースもあり、およそ1割程度が治療を受けずにウイルスが消失するとされています。
さらに、感染しているウイルスの型(セログループ・ゲノタイプ)を特定することで、治療薬の選択や効果の予測に役立ちます。
また、B型肝炎と同様に肝機能の評価として、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、ビリルビンなどを測定します。肝臓の線維化(硬化)の進行度を確認するためには、ヒアルロン酸、Ⅳ型コラーゲン、M2BPGiといった線維化マーカーも併せて検査します。
肝臓がんが潜んでいる可能性もあるため、AFPやPIVKAⅡといった腫瘍マーカーを加えて、総合的に肝機能やリスクを評価します。
画像検査
腹部超音波検査(腹部エコー検査)は、C型肝炎による肝臓の状態を把握するために有効です。慢性肝炎、肝硬変、肝がんの有無を確認する際に用いられ、診断から経過観察まで幅広く活用されます。
検査は短時間で終わり、身体への負担も少ないため、外来での実施が可能で、肝臓疾患全般のフォローアップにも適しています。
また、腹部超音波検査のみでは死角が生まれやすいため、より詳しい画像評価を行うために、CT検査やMRI検査が行われることもあり、特に肝がんの発見に有効です。
治療方法
C型肝炎ウイルス(HCV)は、B型肝炎ウイルスとは異なり、体内から完全に排除できるウイルスです。そのため、治療の目的はウイルスを根本的に除去し、肝機能の悪化や肝臓がんへの進行を防ぐことにあります。現在の主な治療法には、かつて主流であった「インターフェロン療法」と、現在主流となっている「インターフェロンフリー療法(飲み薬のみ)」があります。
インターフェロン療法
従来、C型肝炎の治療は「インターフェロン製剤」を中心に行われてきました。インターフェロンには複数の種類があり、内服薬と併用する治療も行われていました。しかし、副作用が強く、ウイルスの排除率も十分とは言えなかったため、課題の多い治療法とされてきました。
現在では、より安全で効果的な「インターフェロンフリー療法」が主流となっています。
インターフェロンフリー療法
2014年から導入された「インターフェロンを使用しない治療法」で、DAA(直接作用型抗ウイルス薬)と呼ばれる内服薬を用いて治療します。外来通院で短期間(2.3ヶ月)の服薬だけで済み、ほとんど副作用がないという画期的な治療法です。
現在使用されている主なDAA製剤には以下のようなものがあります。
- ソホスブビル
- ソホスブビル・レジパスビル配合錠
- エルバスビル・グラゾプレビル併用療法
- グレカプレビル・ピブレンタスビル配合錠
- ソホスブビル・ベルパタスビル配合錠
これらの薬剤は、ウイルスのセログループ・ゲノタイプ、肝炎の進行度、過去の治療歴などを考慮して選択されます。
初回治療の場合、95%以上の確率でウイルスを完全に排除(SVR=持続的ウイルス陰性化)できるとされており、C型肝炎は「治る病気」になりました。
肝庇護療法
インターフェロンフリー療法が主流となった現在、肝庇護療法はほとんど用いられなくなっています。これはウイルスを排除することができない患者様に対し、肝機能の保護を目的として行われる治療です。
ウルソデオキシコール酸の内服や、グリチルリチン製剤の注射などが用いられますが、治療は継続的に行う必要があります。
予防方法
HCV(C型肝炎ウイルス)には、現在のところ有効なワクチンが存在しないため、感染を未然に防ぐことが極めて重要です。
そのための具体的な予防策は、以下のとおりです。
血液との接触を防ぐ:他人の血液に触れることのないよう注意する。
- 医療機関での感染対策:消毒や滅菌が適切に行われた医療器具を使用している施設を選ぶ。
- タトゥーやボディピアスの施術:衛生管理が徹底され、器具の消毒が確実に行われている信頼できる店舗を利用する。
C型肝炎に関する注意点
インターフェロンを使用しない治療法である、DAA(直接作用型抗ウイルス薬)による治療後も、定期的に血液検査、腹部超音波検査(腹部エコー検査)、必要に応じてCT・MRI検査を受ける必要があります。肝臓がんの発がんリスクは低下しますが残るためです。
C型肝炎はDAA製剤によってウイルスの排除が可能となった一方で、「治療後の経過観察」が新たな課題となっています。
近年、ウイルスが排除された後に通院をやめてしまい、肝がんの発見が遅れるケースが増加しています。
C型肝炎が完治しても、これまでに肝臓に蓄積されたダメージ(線維化や瘢痕)は残り、その部位から肝臓がんが発生する可能性があります。
そのため、治療が終了した後も、定期的な肝臓の検査を継続することが極めて重要です。
当院でも、治療後の経過観察を目的に、継続的に検査を受けておられる患者様が多数通院されています。
E型肝炎
主な症状
E型肝炎は、E型肝炎ウイルス(HEV)が口から体内に入ることで感染するウイルス性肝炎の一種です。主に急性肝炎として発症し、基本的には一過性で経過し、自然に回復するケースがほとんどです。
潜伏期間はおよそ3〜8週間で、発熱、吐き気、腹痛、黄疸、肝機能障害、肝腫大など、典型的な急性肝炎の症状が現れます。
多くの場合は良好な経過をたどりますが、妊婦が感染すると重症化しやすく、致死率が高まることが知られており、特に注意が必要です。
検査・診断方法
血液検査によりE型肝炎ウイルスに対する抗体の有無を調べ、感染しているかどうかを判定します。
併せて、肝機能の状態を確認し、劇症肝炎へと進行していないかどうかも評価します。
感染経路
海外では、E型肝炎が流行している地域において、動物の糞便により汚染された生水や生肉の摂取による感染が多く見られます。
一方、日本国内においてもE型肝炎の発症例は報告されており、ジビエ肉(イノシシやシカなど)を十分に加熱せずに食べた場合、豚レバーなどを生食した場合などで感染します。
治療方法
E型肝炎は、ほとんどの場合は自然に治癒するため、対症療法が基本となります。
しかしながら、稀に病状が悪化して重症化や劇症肝炎に至るケースもあるため、その際には症状に応じた集中治療(血漿交換療法、血液浄化療法など)が必要になります。
予防方法と注意点
E型肝炎を防ぐためには、以下のような感染対策が重要です。
- 流行地域では生水や加熱不十分な食材を避けること
- イノシシ・シカ・豚肉などの肉類は中心部までしっかり加熱してから食べること
また、E型肝炎ウイルスは発症前の無症状の段階でも糞便中に排出されるため、自分自身に症状がない段階でも他者に感染を広げてしまう可能性があります。このため、予防意識を高く持ち、食事や衛生管理に注意を払うことが大切です。



