潰瘍性大腸炎について
潰瘍性大腸炎は、炎症性腸疾患の一種で、厚生労働省の難治性疾患に指定されている、いわゆる「難病」の1つです。ただし、適切な治療を受けて症状が安定すれば、健常な方とほぼ変わらない生活を送ることも可能です。
この病気は比較的若年層に多く見られ、特に30代での発症が目立ちますが、年齢を問わず誰にでも発症する可能性があります。最近では高齢になってから診断されるケースも増えています。
一旦症状が治まったように見えても、数カ月から数年後に再び悪化することがあるため、継続的な経過観察が重要です。かつては欧米に多く、日本では稀とされていましたが、現在では国内の発症数も急増しています。
潰瘍性大腸炎を引き起こす原因
潰瘍性大腸炎の発症メカニズムは現在のところ完全には解明されていませんが、過剰な免疫反応が主な要因と考えられています。具体的には3つの要素が関与していると推測されています。
1つ目は、腸内細菌のバランスが崩れることで引き起こされる炎症反応、2つ目は、本来身体を守るはずの免疫機能が自分の腸を攻撃してしまう自己免疫の異常、3つ目は脂肪分や肉類の多い食生活などの食習慣です。
さらに、家族内で発症する例も多く報告されており、遺伝的な体質も影響している可能性が指摘されています。
潰瘍性大腸炎の主な症状
この疾患では、大腸の粘膜にびらんや潰瘍が生じ、血便・下痢・腹痛・しぶり腹といった消化器症状が現れます。重症化すると発熱や体重の減少、貧血など全身に及ぶ症状が出ることもあります。
炎症が激しく長期間続いたり、腸の深層まで波及することで、腸閉塞や穿孔といった腸管合併症が発生することがあります。
また、関節炎や皮膚疾患、眼の炎症といった腸以外の部位に症状が現れる「腸管外合併症」を伴うケースも見られます。
長期(数年以上)の罹患により、大腸がんのリスクが上がるとされ、定期的な大腸カメラ検査が必要です。
潰瘍性大腸炎の検査・診断方法
診断においては、まず症状の経過や既往歴を詳しく確認したうえで、他の病気との鑑別を慎重に行う必要があります。
主な検査としては、大腸カメラ検査を中心に、X線造影検査や病理組織検査などを組み合わせて進めていきます。疑わしい症状がある場合には、まず大腸カメラ検査を行い、大腸の粘膜の状態を直接観察しながら、必要に応じて組織を採取して詳しく調べます。
また、他の胃、肝臓などの臓器評価、チェックのため、胃カメラ検査、CT検査、腹部超音波検査など施行し適切に評価していきます。
潰瘍性大腸炎の治療方法
薬物療法
潰瘍性大腸炎は原因が明確に分かっていないため、現在の治療では「腸の炎症を抑えて症状を鎮めること(寛解導入)」と「炎症のない状態をできる限り維持すること(寛解維持)」が主な目標となります。
そのため、内科的な治療が基本となり、特に薬物療法が中心に行われます。
炎症を抑えるための各種薬剤が使用され、症状の程度や病態に応じて使い分けられます。
炎症抑制薬(当院対応)
腸の炎症を直接鎮める作用があり、寛解を導くだけでなく、再発予防にも用いられます。内服薬のほか、局所に作用する坐剤や注腸剤のタイプもあります。
ステロイド(局所製剤のみ当院対応)
強力な抗炎症作用を持ち、症状が強い時期(活動期)に速やかに炎症を抑える目的で使用されます。経口薬、坐剤、注腸剤など、投与方法が選べます。
免疫調整薬(プリン拮抗薬・カルシニューリン阻害薬)
潰瘍性大腸炎は免疫の過剰反応が一因とされており、これらの薬剤は免疫機能を抑えることで症状を改善します。プリン拮抗薬は寛解状態の維持や、ステロイド使用量の軽減にも有効です。
生物学的製剤
炎症を引き起こす特定の体内物質の働きを抑えるお薬です。近年では、難治性の潰瘍性大腸炎にも効果を示す選択肢として注目されています。
外科的治療
多くの患者様では薬物療法でコントロールが可能ですが、重度の出血や穿孔、中毒性巨大結腸症、がん化などの深刻な合併症が生じた場合には手術が検討されます。
潰瘍性大腸炎の病変は基本的に大腸に限局するため、外科治療では大腸全摘出術が選択されます。最近では、肛門の機能を残したまま排便ができるような術式が主流となっており、生活の質(QOL)を保ちながら治療することが可能です。
血球成分吸着除去療法
この治療では、腕から採取した血液を特殊なカラム(ろ過装置)に通し、炎症に関与する顆粒球や単球、リンパ球、血小板などを選択的に取り除いたうえで体内に戻します。副作用が少ないことから、薬剤が使用しにくい場合の治療法としても選ばれています。
潰瘍性大腸炎は、症状が治まる「寛解期」と再び悪化する「再燃期」とを繰り返す慢性疾患です。特に、発症から長期間が経過すると、大腸がんの発症リスクが高まります。
なかでも、発症から10年以上経過した全大腸炎型の患者様では、発がん率が上昇する傾向にあります。早期発見・早期対応のためにも、定期的な大腸カメラ検査を受けることが重要です。
クローン病について
(初期対応など当院対応し、原則高次医療機関へ紹介しております)
クローン病(Crohn病)は、主に小腸や大腸などの消化管に慢性的な炎症を引き起こす原因不明の疾患です。腸管にびらんや潰瘍ができることで、様々な症状が生じます。
この疾患は厚生労働省の難治性疾患に指定されており、潰瘍性大腸炎とともに「炎症性腸疾患(IBD:inflammatory bowel disease)」として分類されます。難病に位置づけられていますが、適切な治療によって症状をコントロールできれば、健常な方と変わらない日常生活を送ることも十分に可能です。
クローン病は特に若年層での発症が多く、男性では20代、女性では10代にピークが見られるのが特徴です。
主な症状には、腹痛、下痢、血便、発熱、体重の減少に加え、肛門周囲の腫れや痛みなどがあります。また、腸管以外にも合併症が現れることがあり、長期的な経過を見据えた医療管理が必要となります。
クローン病を引き起こす原因
クローン病の明確な原因は現在のところ解明されていません。
ただし、遺伝的な要因に加え、食生活や腸内環境などの様々な外的因子が複雑に影響し合い、腸の免疫調整機能に異常をきたすことで慢性的な炎症が引き起こされると考えられています。
クローン病の主な症状
クローン病では、口から肛門にかけての消化管のあらゆる部位に炎症が生じ、浮腫や潰瘍を形成することがあります。症状は個人差が大きく、病気の進行状況によっても変化します。
最も多く見られるのは腹痛と下痢で、全体の約70〜80%の患者様に見られます。その他、発熱、血便、貧血、栄養障害、関節の痛み、痔ろうといった症状が生じることもあります。
クローン病の検査・診断方法
クローン病の診断は、血液検査のみで特定することはできません。そこで、消化管の状態を詳しく調べるために、造影検査や、胃カメラ・大腸カメラなどの内視鏡検査が中心となります。
海外ではカプセル型の内視鏡を用いることもありますが、日本では安全性の観点から一般的に使用されていません。これは、クローン病によって腸の狭窄(腸が狭くなる病変)があると、カプセルが通過できず閉塞を引き起こす可能性があるためです。
また、他臓器の評価、チェックのため、CT検査、腹部超音波検査など施行し適切に評価していきます。
クローン病の治療方法
クローン病の治療は、「薬物療法」「栄養療法」「外科的治療」の3つを柱として行われます。症状の程度や病状の進行に応じて、これらを適切に組み合わせながら進めていきます。
薬物療法
病状に応じて、腸の炎症を抑えるための各種薬剤が使用されます。
炎症抑制薬
比較的軽症の場合に用いられ、腸の炎症を鎮める働きがあります。寛解導入の第一選択薬とされることが多く、安全性の高い治療法です。
ステロイド
強い抗炎症作用を持つ薬剤で、活動期における症状の緩和に高い効果を発揮します。ただし長期使用による副作用もあるため、寛解導入後は速やかに減量が図られます。
免疫調節薬(プリン拮抗薬など)
クローン病では免疫機能の異常が関与していると考えられており、これらの薬剤は免疫反応を抑制することで症状を改善します。効果が安定するまで数カ月かかる場合もありますが、寛解導入とその維持、さらにステロイドの使用量削減にも有用です。
生物学的製剤
体内で過剰に作られる炎症誘導物質の働きを抑える薬剤です。難治性や重症例に対して有効で、近年治療の選択肢として広く用いられています。
栄養療法
腸への刺激を軽減しながら、栄養状態を改善するための治療法です。症状のコントロールや成長の促進、手術後の回復支援としても活用されます。大きく以下の2種類に分かれます。
経腸栄養療法
液状の栄養剤を経口または鼻からチューブで投与します。腸にやさしい消化態栄養剤や成分栄養剤のほか、やや消化を必要とする半消化態栄養剤なども使われます。
完全静脈栄養療法
高度な狭窄や広範囲な病変がある場合、または経腸栄養が困難な場合に行われます。中心静脈にカテーテルを留置し、高濃度の栄養を体内に直接補う方法です。
外科的治療
内科的治療で症状が十分に改善せず、社会生活が著しく制限されるような場合には、外科的処置が検討されます。
日本では、発症から5年で約3割、10年で約7割の患者様が何らかの手術を受けています。ただし、クローン病は再発しやすい特性があるため、手術ではできる限り腸を温存しながら病変部のみを切除するような術式が選択されます。
血球成分吸着除去療法
この治療法では、体外に取り出した血液を専用のカラム(筒)に通し、炎症の原因となる白血球や血小板などの成分を選択的に取り除いた後、血液を体内に戻します。薬剤の使用が難しい場合などに行われることがあります。
内視鏡的バルーン拡張術
腸の狭窄部に内視鏡が届く場合には、バルーン(風船)を使って狭くなった部分を拡張する治療も行われます。



