蕁麻疹について
蕁麻疹は、突然皮膚に虫刺されのような赤く膨らんだ「膨疹(ぼうしん)」が現れ、強いかゆみを伴いながら短時間で痕を残さず消える皮膚の病気です。多くの場合、数十分から長くても1日以内に自然に治まるのが特徴です。発疹は体のどの部位にも出現する可能性があります。
皮膚には「肥満細胞(マスト細胞)」と呼ばれる免疫細胞が存在し、この細胞の中にはアレルギー反応を引き起こすヒスタミンなどの化学物質が含まれています。
何らかの刺激によって肥満細胞が活性化すると、ヒスタミンなどが放出され、血管が広がることで紅斑が生じ、血管から水分が漏れ出て膨疹ができ、強いかゆみが発生するというメカニズムで蕁麻疹は発症します。
蕁麻疹と湿疹の違い
蕁麻疹と湿疹は、見た目が似ていることがありますが、原因や治療法が異なります。
湿疹は皮膚の表層(表皮)に炎症が起こることで発症し、治るまでに時間がかかるほか、回復後に色素沈着が残ることが多いです。
一方、蕁麻疹は皮膚のより深い層(真皮)にある血管から水分が漏れることで発疹が生じ、短時間で痕を残さず消えるのが特徴です。
また、治療法も異なります。湿疹では主に皮膚の表面に塗る外用薬(塗り薬)が用いられますが、蕁麻疹は皮膚の深い部分に異常があるため、内服薬による治療が基本となります。
蕁麻疹を引き起こす原因
蕁麻疹の原因は明確に特定できないことも多いですが、発症にはいくつかの要因が関与していると考えられています。
その代表例として、即時型アレルギー反応(Ⅰ型アレルギー)があり、スギ花粉症などと同じタイプのアレルギーです。ただし、全ての蕁麻疹がアレルギーによって起こるわけではなく、非アレルギー性の誘因も多く知られています。例えば、ストレスや疲労、感染、薬剤の影響、発汗、ベルトなどによる物理的刺激などがあります。
蕁麻疹は、発症から6週間以内のものを「急性蕁麻疹」、6週間以上持続する場合を「慢性蕁麻疹」と分類します。
蕁麻疹の発症に関わる主な要因
- 物理的刺激:ベルトや衣服の締め付けなどによる圧迫
- 温度の変化:入浴や就寝後の温冷刺激
- 発汗による刺激:汗をかいた後の皮膚の変化
- 内服薬の影響:アスピリンなどの風邪薬
- 食べ物:特定の食品が誘因となる場合
- 運動による刺激
- ストレスや疲労:精神的・肉体的な負荷
特殊な種類の蕁麻疹
コリン性蕁麻疹
入浴・運動・緊張などによって発汗を促されたときに出現する蕁麻疹です。小児から30代前半までの若年層に多く見られます。
物理性蕁麻疹
皮膚への機械的刺激や外的環境による変化が原因で起こる蕁麻疹で、衣類の圧迫や摩擦、寒冷・温熱刺激、日光への暴露、水との接触などが誘因となります。
口腔アレルギー症候群
生の野菜や果物に含まれるアレルゲンが、スギやシラカンバなどの花粉アレルゲンと構造が似ていることで、交差反応と呼ばれるアレルギー反応が起こります。摂取後数分〜十数分以内に、口の中のかゆみ、粘膜の腫れ、イガイガ感といった症状が出るのが特徴です。
蕁麻疹の治療方法
蕁麻疹の治療は、原因となる刺激や誘因を避けることが基本であり、併せて抗ヒスタミン薬による薬物療法が行われます。
抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は、作用の持続時間や眠気の出やすさなどがお薬によって異なります。ライフスタイルや体質に応じて、主治医と相談しながら適切なお薬を選ぶことが重要です。
眠気を避けたい方(ドライバーや仕事で集中力が必要な方など)には、第2世代の眠気の少ないタイプがお勧めです。緑内障や前立腺肥大症がある方は、抗コリン作用が強い第1世代の使用は避け、第2世代抗ヒスタミン薬を選択します。
難治性の蕁麻疹への対応
原因が特定できず、抗ヒスタミン薬を服用しても効果が見られない場合には、次のような対応が検討されます。
- 一部の抗ヒスタミン薬を通常の倍量に増量する
- 複数の抗ヒスタミン薬を併用する
それでもなお、日常生活に支障をきたすほどのかゆみが続く場合には、オマリズマブ(商品名:ゾレア)という注射薬の適応が検討されます。
オマリズマブ(ゾレア)について
オマリズマブは、即時型アレルギー反応に関与するIgE抗体に結合し、炎症を抑制する作用を持つ注射薬です。慢性蕁麻疹に対して高い効果が期待されており、12歳以上の小児および成人に対して1回300mgを4週ごとに皮下に注射します。
注射は医療機関での施行に加え、在宅での自己注射にも対応しています。
費用の目安
1カ月あたり約17,400円(3割負担・診察料は別途)
蕁麻疹の治療期間について
蕁麻疹の症状が治まった場合でも、治療をすぐに中止せず一定期間は抗ヒスタミン薬の継続服用が推奨されています。これは、再発防止と病態の安定化を目的とした治療方針です。
診療ガイドラインでは以下のように示されています。
- 急性蕁麻疹(発症から6週間以内):症状改善後も数日〜1週間程度の服用継続が望ましい
- 発症から2カ月以内の慢性蕁麻疹:1カ月程度の継続服用を推奨
- 2カ月以上経過した慢性蕁麻疹:2カ月間の継続治療が目安
当院では、特に罹患期間が長い方には、症状が改善した後もやや長めに治療を継続する方針を取っています。



